著者
坂本 真士 影山 隆之
出版者
日本精神衛生学会
雑誌
こころの健康 : 日本精神衛生学会誌 (ISSN:09126945)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.62-72, 2005-12-10
参考文献数
53
被引用文献数
1

本稿では, 自殺に関する報道が, 自殺行動に及ぼす影響について文献的な検討を行った。レビューした対象は, 1. ニュース報道 (新聞やテレビなど) の影響 (報道の影響に関する研究, メタ分析, 報道の内容分析), 2. ニュース報道以外の情報源からの影響, 3. 介入研究であった。<BR>ニュース報道については, 海外の研究では報道によって自殺行動が続発する可能性が示された。メタ分析の結果から, 現実の自殺の報道はフィクションにおける自殺の記述よりも, また有名人 (タレントや有名政治家) の自殺報道はそうでない人の自殺報道よりも, それぞれ影響力が強いことが示された。日本における研究は数少ないが, 有名人の自殺報道については影響力が強いことが示された。報道の内容分析を見ると, 自殺の現状を正確に反映しているというよりも, ニュースバリューの高いものに報道が偏り, 自殺を単純化して報道していることが示された。ニュース報道以外の情報源からの影響については, 海外では自殺を描写したドラマが流された後に自殺が続発した例が報告されていた。日本ではそのような研究は見られなかった。介入研究については, 海外ではウィーンの地下鉄における自殺報道において, ガイドラインの作成とマスメディアの協力によって自殺件数が減少したことが報告された。<BR>最後に, レビューをふまえて今後の検討課題について展望した。日本においてはメディアの影響の検討が不十分であり, 学術的な検討が必要であること (例: 自殺者が増加した1998年前後における影響の検討), 報道の影響や介入の可能性を検討する基礎研究が必要であること, 予防への実践に関する研究も並行して進める必要があることを指摘した。
著者
岩崎 直子
出版者
日本精神衛生学会
雑誌
こころの健康 : 日本精神衛生学会誌 (ISSN:09126945)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.67-75, 2001-11-30
参考文献数
43
被引用文献数
3

男性の受ける性的被害は, 古くから存在してきたにも関わらず, 長い間タブー視されてきた問題である。そのため被害事実の開示が難しく, 多くの被害者が, 必要なサポートも満足には受けられずにいるのが現状である。ここでは, まずこの問題に関して, 各関係分野の専門家をはじめとする社会の人々の充分な理解を得るため, 被害者のおかれている状況や付随する問題点, 被害後にみられる身体的・精神的影響, セクシュアリティの揺らぎ, 人間関係への影響などについて, 主に海外の研究報告を参考にまとめて紹介した。この問題提起をきっかけとして, 具体的なサポートへの取り組みがなされるよう, 今後の国内における啓発活動や実態調査, 相談員の研修などについても提案を試みた。
著者
田村 和子 井上 果子
出版者
THE JAPANESE ASSOCIATION FOR MENTAL HEALTH
雑誌
こころの健康 : 日本精神衛生学会誌 (ISSN:09126945)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.73-87, 2005-12-10

本研究では, 従来青年期心性の特徴として指摘されてきた複数の視点に加えて, 対人関係における葛藤的側面といった視点を導入し, 「境界例心性」として位置づけた。質問紙調査を通じて, 青年期における境界例心性の構成要素を見いだし, 各成分間の関係を図示した。さらに境界例心性に与える両親の養育態度の影響を検討した。<BR>予備調査では, 青年期における境界例心性の全体像を把握するために, 境界例の診断基準に基づいて独自に作成した質問項目を用いて大学生を対象に調査を行った。その結果, 青年期における境界例心性は, 感情・衝動コントロールのできなさや非現実感よりも, 対人関係における敏感さや孤独感, 不安定な自己像や抑うつ感, 自我同一性の欠如によって構成されていることが示された。本調査では, 大学生・専門学校生を対象に調査を行い, 予備調査で明らかとなった境界例心性の側面をより詳細に検討することを試みた。対人関係における敏感さや葛藤的な感情については, 予備調査で使用した質問項目を再構成し, 独自に尺度を作成し, 「対人関係における境界例心性尺度」と命名した。抑うつ感と自我同一性に関しては既存の尺度を用いた。これら3尺度間の関連を検討した結果, 青年に内在化された境界例心性の構成要素が同定されるとともに, 発達の一側面としての特徴が明らかになった。また, その構成成分から, 青年期における境界例心性と, 精神障害としての境界例との共通点と異なる点が示唆された。さらに青年期の発達過程における内的葛藤状況が, 他者との関係の中の揺れとして示される点が, 青年期独自の境界例心性の特徴として捉えられた。<BR>両親の養育態度との関連を通して, 性別を問わず, 特に心理社会的同一性の確立に与える両親の養育態度の重要性, ならびに自己・他者・社会に対する一貫した自己像の確立に与える母親養育態度の重要性が示唆された。また青年期の女性における父親の養育態度の影響力の強さが明らかとなった。
著者
中村 光 岩永 可奈子 境 泉洋 下津 咲絵 井上 敦子 植田 健太 嶋田 洋徳 坂野 雄二 金沢 吉展
出版者
THE JAPANESE ASSOCIATION FOR MENTAL HEALTH
雑誌
こころの健康 : 日本精神衛生学会誌 (ISSN:09126945)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.26-34, 2006-12-30

本研究の目的は, ひきこもり状態にある人を持つ家族の受療行動に影響を及ぼす要因を明らかにすることであった。ひきこもり親の会 (セルフヘルプグループ) に参加している家族153名から自記式質問紙による回答を得た。その結果, 以下のことが明らかにされた。(1) 家族の85.6%がひきこもり状態を改善するために相談機関を必要としている。(2) 精神疾患に対する偏見が家族の受療行動を阻害する可能性がある。(3) 相談機関の存在や所在地を知っていることが, 家族の受療行動を促進する可能性がある。(4) 家族にとって保健所や精神保健福祉センター, 電子メールによる相談は利用しにくく, 反対に電話相談は利用しやすい可能性がある。(5) ひきこもり状態にある本人が相談機関来所を拒否すると, 家族の受療行動を阻害する可能性がある。調査結果の検討を通して, ひきこもり状態にある人を持つ家族の受療行動を促進する方法が議論された。